เข้าสู่ระบบ新年のお祭りだからと、パレード待ちする人でごったがえす街路にナディアは連れ出されていた。新年初日は古書店も休みであり、首都で新年を過ごすのは初めてだと言ったら、「新年名物銃騎士隊パレードを一緒に見に行こう!」と張り切るエリミナに連れ出された。
あたりは人、人、人。人間ばっかり。パレードに群がる人垣を見回しても、やっぱり首都に獣人なんてそうそういない。
もしもここでナディアが獣人であることが周囲の人間たちに知れ渡れば、きっと確実にボコボコにされるだろう。最初に首都に飛ばされた時こそ、正体がバレたらどうしようと不安に苛まれたものだったが、今ではそんな不安もどこかへ飛んで行ってしまった。
獣人としての華やかな容姿を持たず、むしろ人間の中では中くらいの平凡な容姿に位置づけられ、どこにでもいそうな冴えない見た目のナディアが、実は獣人だなんて勘ぐるものはこれまで誰もいなかった。
(それはそれで悲しいけど)
「ああっ! ゼウス様が! ゼウス様が行ってしまわれた! このままじゃアテナ様のサインをゼウス様に頼めない!」
パレードの見物人でひしめく人々の中、隣で焦ったような声を出しているのは松葉杖姿のエリミナだった。この場にアテナ様本人がいないのに姉のサインを弟に頼んでどうするのだろうと思ったが、アテナ様の写真集をゼウス様に預けて自宅でサインをして来てはもらえないかと頼むつもりだったらしい。
お礼に父親経由で入手した超人気舞台のプレミアチケットを渡すつもりで。沿道には警邏隊による規制線が引かれているが、時折その隙間から飛び出して銃騎士の元まで走り、握手やサインをしてもらったり、プレゼントを渡していたり、わざわざ写真機を持ち出して共に写真を撮っている者たちもいる。
エリミナは人垣の合間を縫ってパレードの先頭を追おうとするが、人が多すぎて進むどころか逆に押されよろけてしまう。
片脚を怪我しているせいで踏ん張れずに倒れそうになったエリミナを、ナディアが手を出すよりも先に黒髪の青年が支えた。性別は男だが、どちらかといえば少動物のような可愛らしい顔つきをした彼こそが、エリミナの婚約者である『アーくん』ことアーヴァイン・サングスターだった。アーヴァインはナディアたちより一つ年上だが、小柄で華奢な体格をしていて、一見すると年下にも見える。
アーヴァインはエリミナの父方の従兄で、現在この首都の名門最上級学校に通う学生だ。頭の良さをエリミナの父親に買われ、数いる従兄弟の中からエリミナの婚約者として選ばれて、商会の跡継ぎにも指名されている。
「大丈夫か?」
アーヴァインがエリミナの肩を両手で抑えながら心配そうな声を出している。
「ありがとう、アーくん」
エリミナはアーヴァインの顔を見ながらほっとしたような表情になる。二人が並ぶと絵に描いたような美男美女カップルだ。
すぐに控えていた護衛も人垣を掻き分けて助けに入り、足を怪我しているエリミナはアーヴァインに支えられた状態で人波から連れ出された。ナディアも彼らの後をついて行く。
今日はナディアとエリミナとアーヴァインの三人でパレードを見学に来たのだが、出来るだけ三人でのお出かけを邪魔しないようにしつつ、エリミナの護衛として数人の屈強な男たちもついて来ていた。
以前は特に護衛などついていなかったのだが、少し前にエリミナが誘拐される事件が起こり、以降エリミナの外出時には護衛がつくようになった。脚の怪我もその時に負ったもので、まだ完全には治っていない。
その事件に巻き込まれたアーヴァインも犯人たちから暴行を受けた。エリミナのように歩行に支障が出るほどの怪我はしていないが、頬にはまだ湿布が貼られている。エリミナを攫ったのはエリミナの父方の別の従兄だ。エリミナの母親は一人っ子だが父親には兄弟が五人ほどいるので、従兄弟も多いそうだ。
そのエリミナを攫った従兄たちは、自分たちが商会の跡継ぎに指名されなかったことが不満だったらしく、エリミナを手籠めにして自分たちの誰かと結婚するように仕向けて、商会の跡継ぎの座を狙うつもりだったらしい。******
エリミナは毎日古書店に来るわけではないが、事件が起こる前日に『明日も店に来られそうよ』と言っていた。
しかしその日、学校が終わるいつもの時間帯になってもエリミナは現れなかった。ナディアは少し変だなとは思ったが、急に予定が変わったのだろうと考えた。けれど日も暮れた頃に屋敷からの迎えの馬車が来て、そこでエリミナの所在が不明になっていることが発覚した。
ナディアも使用人と共にエリミナを探しに走った。学校に行き、門付近にいた守衛に確認すると、いつもの定刻にエリミナが学校の門を通って一人で学外に出ていたと告げられた。
学校から古書店はかなり近い。エリミナは学校帰りに古書店に寄る際は自宅の馬車は使わずに徒歩で店までやって来る。学校を出てから店に来るまでの間にエリミナに何かがあったのだ。
ナディアは学校の門付近からのエリミナの匂いを追うことにした。通りは馬車や人間など雑多なものが行き来していて、エリミナが門を通ったのも数時間前だ。獣人は嗅覚が鋭いとはいえ、条件が悪いと匂いも嗅ぎ取りにくい。
ナディアはかなり集中した。
脳内に通学鞄を持った女学生エリミナの姿が浮かび上がる。ナディアはエリミナが通った道を自分も歩いた。
角を曲がり、大通りから逸れていく。近道をするためか人気のない小路に入った所で、派手な屋根飾りをつけた二頭立ての馬車がやって来て、街路から目隠しをするように小路の入口で止まった。
すると馬車の中から下卑た笑みを浮かべた二十歳前後くらいの黒髪の男が降りてきた。気づいたエリミナが男から逃げようと走るが、今度は小路の反対側から、男に似た容姿のやはり下品な笑みを浮かべた十代後半ほどの少年が現れて、挟み撃ちにされてしまった。彼らはエリミナを捕まえると、彼女の口元に薬品が漂う布を押し当てた。そのままぐったりしてしまったエリミナを、彼らは二人がかりで抱えて馬車に押し込む。三人が馬車に乗り込むと、御者台にいた十代半ばの黒髪の少年が馬車を走らせ始めた――
(大変! エリミナが「三馬鹿」に攫われた!)
「三馬鹿」とはナディアも知っているエリミナの従兄たちだが、彼らと直接話したことはない。
エリミナと仕事をしていると、店の前をウロウロする黒髪の大中小の背丈の男たちがいることがあったが、すぐにリンドがやって来て彼らを店の前から追い払っていた。 彼らはエリミナの従兄だが、素行が悪く、リンドの店には出入り禁止にされていた。 リンドは彼らを「三馬鹿」と呼んでいて、エリミナの覚えも悪いようだった。ナディアは近くにいた使用人に、エリミナが黒髪の三人組に派手な馬車に押し込められて連れ去られたのを見た人がいると告げ、「見た人は急いでいるからと行ってしまってどこの誰かもわからないけど、とにかく誘拐されたみたい!」と伝えた。
嗅覚で知覚したなんて言ったら獣人であることがバレてしまうので、本当のことは言えない。
使用人も三兄弟のことは知ってたようで、「すぐに旦那様に伝えます!」と馬車に乗って去って行った。
ナディアはすぐに、エリミナを連れ去った馬車の匂いを、自分の脚力で追い始めた。入浴の習慣のある人間と違い、馬は体臭も強いので匂いは追いやすかった。
ナディアは馬車を追いながら、中に乗る三兄弟から特徴的な植物の匂いを嗅ぎ取った。
それは彼らが店の前に来ていた時にも嗅ぎ取っていた匂いで、たぶん違法なもののようだ。三人は手を出してはいけないものに手を出しているようだった。
嗅覚で探る限り、馬車は首都郊外の、周りに田園の広がるやや寂れた街に入って行った。古ぼけて空き家になっているらしき一軒家の前に、件の派手な馬車が停まる。
家の中からエリミナと、それからアーヴァインの血の匂いがした。ナディアは鍵もかかっていないその家の中に入った。
シリウスは、八歳になり美少年具合に磨きがかかる愛息のオリオンと、第四子妊娠中で安定期に入ったナディアを連れて、侯爵になった兄ジュリアスに頼み、領地のブラッドレイ侯爵家で行われるお茶会に参加させてもらうことにした。 そのお茶会は貴族が主な参加者だが、兄ジュリアスと違って平民であるシリウス一家は、兄の家族枠とでも言うべきか、有り体に言えば縁故枠として特別に入れてもらった。 お茶会には平民の商人も混ざっていて、同じく平民であるシリウスたちがいてもそこまで白い目で見られることもなく、また、英雄と評されることもあるジュリアスの威光の影響もあってか、ジュリアスの実弟一家ということで、参加者たちには概ね温かく迎え入れてもらえたと思う。 シリウスがジュリアスに、「貴族の催しに自分たちも混ぜてほしい」と頼んだのは始めてだった。 ナディアには、「貴族のお茶会? マナーわからないけど?」と言われたが、妊婦だから飲めない食えないと通せば大丈夫だと言い、二の足を踏んでるところにお腹を締めつけないタイプの綺麗なドレスを着せて、「オリオンのためだから」と説き伏せ、無理矢理参加することを了承させた。 四歳の無邪気な双子たちは、平民が走り回って場を引っ掻き回したらまずいと思い、調子のよい母のロゼとシオンに任せてきた。 貴族向けのパーティ参加が初めてのオリオンは、会場に入るなり華やかな雰囲気にキョトンとしていたが、走り回ることもなく、シリウスの言いつけ通り行儀よくできていた。 オリオンは最初は緊張もしていたが、会う度によく可愛がってもらえる伯父のジュリアスや、遊び相手の従兄ジュライもいたので、次第に緊張もほぐれたようだった。 お茶会には、子供の――とりわけ女子の――姿がわりと多かった。なぜならば、ジュリアスとその妻フィオナの息子で、ブラッドレイ侯爵家嫡男であるジュライの婚約者候補に名乗りを上げようと、貴族たちがこぞって年齢の見合う娘を参加させていたからだ。 今回のお茶会の趣旨はジュライの婚約者選び、というわけではないが、国民からの人気も高いブラッドレイ侯爵家と縁続きになりたい家はそれなりに多いようだった。 お茶会が始まるなり、ジュリアスに似たイケメン少年ジュライは同じ歳くらいの令嬢たちに揉みくちゃにされかけたが、すぐに脱兎のごとく逃げ出していた。 ジュライの後を追って令嬢たち
オリオンが生まれてから八年が経った。 ナディアとの間には長男オリオンとの後に男女の双子を授かっている。 双子は四歳になり、現在ナディアは第四子妊娠中で、シリウスの計画通り子沢山街道まっしぐらだった。 ブラッドレイ邸にはレオハルトやジークオルトもいるから、常に子供の声が絶えずに煩いくらいで、ナディアも子供に囲まれて幸せそうではあるものの、日々忙しくしている。 十五歳になり年々大人びて女子力を高めつつあるシオンがよく手伝ってくれるので、助かっているそうだ。 母ロゼは自身と同じように子だくさんになりつつあるナディアの体調を何かと心配していて、孫の面倒を見なければと奮い立ってもくれていて、一時期よりは塞ぎ込むことも減り、番のいない日常を受け入れて生きているようだ。 シリウスは、メロディとルーファウスと名付けたその姉弟が、シドの処刑の日に『未来視』で視た、父アークと母の間に生まれるはずだった子供たちなのではないかと、どうしても思えてしまって、あの時視た『未来視』の通りに、時折複雑な気持ちで双子を見つめている自分がいることに気づく。 シリウスの中では、あの時に自分が『未来視』をすべて把握することができてさえいれば、父は死ななかったのではないか、という後悔と、自分の無力さに打ちひしがれる思いは、ずっとある。 けれど、父が自分の身代わりにならなければ、シリウスこそが死んでいたわけで、今ある幸せを感じられることもなかったのだろうと思う。 シリウスは、自分にその身を捧げてくれたような父に最大限の感謝をしながら日々を生きねばと思っているし、同時に、やはり罪悪感のような気持ちもぬぐいきれなかった。 シリウスは、アークにナディアとの結婚を反対されて以降、父が亡くなるまでは反発ばかりしていて、最後の会話なんて喧嘩別れの言葉だった。「こうすればよかった」「ああすればよかった」という後悔は尽きない。 父に会いたくて、何度か「死者蘇生の魔法」は試したものの、門番のはずのアークは全く応えてくれない。 もし、シリウスが死ぬまでアークが門番のままでいてくれるのならば、向こうで謝りたいのと、「父さんがいたから俺は幸せになれた」と言って、「ありがとう」と伝えたい。 父アークがいなくなって約九年。家族周りには父に話したい出来事が山のように、本当に色々と起こっ
急いでいる時は魔法で服を吹っ飛ばして行為に及ぶこともあるシリウスだが、今回は最初から丁寧にするつもりらしく、まずはキスから始まった。 チュクチュクと口内をねぶられて吸われ、舌がからまり合う音が二人の部屋に響く。性器を受け入れることもだが、キスはお互いの体の一部を明け渡すことで、自分の気持ちも一緒に相手に捧げられるように感じられて、ナディアはとても好きだった。 そんなことを考えてしまったせいか、ナディアは早くもシリウスのペニスを口で受け止めてしゃぶりたくなってしまい、キスされながら服を脱がせられておっぱいを露出させられる傍ら、自分は彼の股間に手を伸ばしてシリウスの服をそこだけ乱し、そそり勃つ立派な男根を外気にさらして手で擦り始めた。「気持ちいいよナディアちゃん……」 シリウスはナディアの胸の頂きに吸いつき舌を這わせながら、時々口を離して吐息を漏らし、色っぽい声で喘いでいる。 猛烈な色気を醸し出すシリウスに当てられて、ナディアの局所もこの人が欲しいとビチャビチャに濡れてくる。 嗅覚でナディアの愛液が漏れ出していることに気づいたらしきシリウスは、胸を揉んでいた片側の手を下ろすと、ショーツの隙間から手を侵入させ、指で秘芽と秘裂を捉えて愛撫を始めた。 シリウスは、長年意識のないナディアに悪戯を仕掛け続けたこともあってか、手淫が目茶苦茶に上手い。 ナディアの弱点とも呼べるクリトリスを指先で刺激し、どこをどうすれば良くなるのかわかりきっている膣内を、挿入した二本の指を動かして巧みに責めてくる。「あっ……! もういっちゃ……っ! あぁぅっ!」 大好きなシリウスの指に、大事な場所を気持ちよくいじられている満足感と安心感から、ナディアはそれほど経たずにすぐに果ててしまい、指を中で咥え込むようにきつく締めつけながら潮まで吹いて達した。「濡れちゃうね。全部脱ごうね」 ぐったりとしたナディアの体を支えながら、シリウスはナディアの火照った体にキスを落としつつ、全ての服を脱がせると、自身も全裸になった。 大きな陰茎に目が釘付けになっているナディアに気づいたシリウスは、ナディアに四つん這いになるように言うと自分はベッドの上で膝立ちになり、ナディアの顔の前に巨根を突き出してきた。 ナディアは喜び勇んで大きな肉棒に吸いつき、手も使いながら舌や頭を動かして、夢中
ヴィクトリア姉様が子供を生んだそうなので、ナディアは番であり、義父アークの喪が明けてから婚姻届を提出して夫にもなったシリウスと共に、かつてお世話になった異母兄ロータスたちの家にお邪魔した。 どうしてこうなったのか、ナディアは死んでいた時があったので経緯はよくわからないが、ヴィクトリアは故郷の里の元住人で幼馴染のアルベールと番になっていた。 二人が番になったと聞いた時は、「なんでリュージュじゃないのーっ!」と、ナディアは驚いて叫んでしまっていた。 アークの葬儀や、人間の「ナディア」として擬態するための様々なことなどが一区切りついた頃に、彼らの元へ向かった時には、それなりにアルベールと幸せそうに暮らしているヴィクトリアがいて、ナディアは心配が杞憂に終わったようだと知って安堵した。 ナディアが故郷にいた頃の記憶では、アルベールは里にいるその他大勢のろくでなし連中と同じく、傲岸不遜で暴力的で意地が悪くて、あまり仲よくしたくない類の男だった。 けれど数年ぶりに再会してみると、「ヴィクトリアは俺のもの」的オーラを振りまきつつ独占欲は垣間見えながらも、アルベールは産後で体調が優れないヴィクトリアを常に気にかけるような優しさを発揮していて、始終笑顔全開のデレッデレな状態にもなっていて、とても幸せそうだった。 正直、こんなによく笑顔を見せる男だっただろうかと、印象はかなり様変わりした。 その後に、ナディアはヴィクトリアが生んだ、彼女によく似た綺麗な顔立ちの赤子と対面した。ヴィクトリア譲りの神秘的な銀の髪も持つ、アンジェと名付けられた生まれたばかりのその女児は、とても小さくて、有り得ないくらい可愛かった。 アンジェ抱っこさせてもらうと、自分の子供でもないのに、ナディアは体の奥から愛しさがこみ上げくるのを自覚した。 アンジェの瞳の色はアルベールと同じ金色で、『二人の愛の結晶なんだなぁ』ということもしみじみと感じた。 ナディアはその後、現在暮らしているブラッドレイ邸に帰宅してから、「私も赤ちゃんが欲しいな……」と思わずつぶやいてしまったが、「じゃあ作ろうか」とシリウスにさらりと言われて、少し戸惑った。「でも、レオもジークもまだ赤ちゃんだし、もう少し先でもいいかな」 番を失った義母のロゼは体調が優れない日もあって、ナディアがシリウスの下の弟たちの母親代わりを務める
門番から鍵を奪い、「冥界の門」の内側に入ったアークの視界は、何もない、一面の暗黒に覆われていた。 しかし暗闇に包まれていたのは、一瞬にも満たないようなわずかな時間だけで、あっという間に肉体が侵食されて崩壊し、苦しみも感じずに死んだ後は、一転、周囲からの温かな光を感じた。 肉体が滅び、幽体だけの状態となってまぶたを開ければ、見渡せる限りの地面には草原と花畑が茂り、上を見れば澄んだ青い空がどこまでも広がっていて、彩りに満ちた常春の世界にアークは立っていた。 死者となり冥界の住人になったことで、生きたままでは見えなかったものが見えるようになったようだ。 幽体の彼は死んだ時の年齢ではなくて、大好きすぎる長男ジュリアスの年齢に近い、二十代前半頃の若い容姿に戻っていて、銃騎士隊の隊服を着たままだった。 巨大な「冥界の門」はすぐ近くにあって、自分のそばには鍵もある。 アークは魔法を使って、扉の外に出てしまった「こちら側」由来のものをできる限り中に引き込むと、扉を動かして門を閉じ、鍵を鍵穴に差し込んでガチャリと施錠した。 扉を閉じている最中も、今も、「あちら側」で死んだ魂が次々と扉を通って、「こちら側」へやって来ていた。 死んで「冥界の門」をくぐると、彼らは輪廻の仕組みを思い出すようで、この世界に迷いなく降り立つと、「あの世」の端に位置する「冥界の門」から離れ、先へと進んで行く。 アークもそうだったが、幽体だった時の記憶は幽体になることでしか思い出せないようで、いずれ「この世」に転生すればまた忘れてしまうのだろう。 アークは巨大な「冥界の門」が建つ、苔生した石造りの土台に腰を下ろした。 通りすぎる死者たちがちらちらと彼の持つ門の鍵を見ている。 鍵で門を開き現世に戻れば生き返れる場合もあって、未練を残す者たちに鍵を奪われる可能性もあったが、そもそも魔力がなければこの鍵は扱えない。 それに精神の世界とも呼べる「あの世」では、魔法使いは最強であり、やろうと思えば対象の魂を滅して二度と存在できないようにすることも可能だ。魔法使いを脅して門を開けさせようとする不届き者も、あまりいない。 アークから少し離れたところにはシドの魂がいて、しばらくこちらを凝視していたが、どうやらアークには勝てないと悟ったらしく、他の魂と同様に、奥へ向かう人々に混じり去っていっ
とにかく人がたくさんいる場所に行けば何とかなるだろうと思った元門番の男は、首都がある方向へ向かった。 ところが、彼の予想に反し、シドが暴れ出した情報が独り歩きした結果、「暴れ出したシドによって大量殺戮が始まってる」とか、「シド率いる大勢の獣人たちが現れて首都一部壊滅状態」とか、首都では正しくない情報であふれていて、シドの処刑は既に執行されたにも関わらず、偽情報に踊らされた人々は大混乱に陥っていた。 デマではあっても命の危機が迫る情報によって、逃げようとしたり、家に閉じ篭もって恐怖する人々が大多数で、愛の営みをしている者たちが全く見つからない。(こんな状態で、真っ昼間から悠長にセックスしとる奴らなんて、おるわけないか……) 彼は絶望的な気分に襲われながらフラフラと空中をさまよっていたが、ふと、「あの世」に引っ張られる力とは別方向の力がグッと自分にかかったのを感じて、ハッとその方向を見た。「もうすぐ新しい命が宿る場所」を示す、例の光が発生している場合、魂をそこに引き込む力も同時に発生する。(最中の奴らがおる! 天の導きや!) 彼は歓喜しながら、導かれる方向へと急ぎ向かった。 ******「孕め孕め孕め孕め孕め孕め孕め孕め孕め孕め孕め孕め孕め孕め孕め孕め孕めえぇぇぇッ……っ!」「あぁっ! あ゙っ! おんぐっ! お゙ん゙っ! ぉんおお゙お゙っ! おゴォっ! ほごぉおおお゙ッっ……!♡」 たどり着いた先では、黒髪に、銀色という珍しい瞳の色をした筋肉質で大柄な男と、二十歳前後ほどの黒髪の女が部屋の中で交わっていた。 が、男は吐精直前の激すぎる突き上げの最中でも女の首を掴んで締めているし、女の方も足先をバタつかせてはいるものの、今にも白目を剥いて気絶しそうなその表情には、隠し切れない恍惚の色が浮かんでいた。 二人は完全に出来上がっているが、いきなりそんなハードプレイ場面に出くわしてしまった元門番の男は、ドン引きしていた。 彼は引っ張られる力に従い、首都の一角にある大豪邸にやって来ていた。商人をしていた前世の記憶を頼りに、そこがアンバー公爵邸であることには気づいたが……(ここ、公爵家? ホンマに公爵家? 凌辱の館とかじゃなくて?) 由緒正しき公爵家の一室で繰り広げられている、殺人現場もかくやという光景には唖然とする
「ゼ、ゼウス! ゼウスが生きてた!」 里に来て季節が巡り春になった頃、ゼウスはなぜか獣人の里の内部で、アーヴァインと再会した。 ゼウスは、シドが死んだあの日に首都を出たきり、以降はナディアの故郷に来るまでずっと隠れ家に住んでいたので、アーヴァインと会う機会もなかった。「死の偽装」以降は話をしに行くこともためらわれてしまい、このまま一生会わずに終わってしまうかと思いきや、アーヴァインは学校用品の納品のために、キャンベル伯爵家の紹介ではるばる首都からやって来ていて、偶然にもゼウスと出会えた瞬間に号泣していた。 友情にもろいアーヴァインは、メリッサことナディアも実は生きていて、ゼウ
ナディアがハッと目を開けた時には、仰向けの状態でベッド上に寝そべっていた。 ナディアがいるのはブラッドレイ家の、オリオンことシリウスの部屋――そもそもの最初にシリウスの存在を認識して、彼に襲われかけた場所――だった。 自分は処刑場にいたはずなのになぜここにいるのだろうと不思議に思ったところで、いきなり、ガツンと頭が殴られたような衝撃と共に、記憶が流れ込んできた。 意識を失う直前、ナディアはゼウスに銃で胸を撃ち抜かれて倒れ、薄れ行く意識の中で自分を愛してくれた二人に対して色々と後悔していた。 ゼウスは狙撃に関してはとんでもなく的確な腕前を持っているので、あの時自分は確かにゼウスに心臓
「夫人、顔を上げてください」 セシルの声はどこまでも優しかった。しかし―― 「獣人ですからね、わかりますよ。たとえ自分の子供でも、殺したくなりますよね」 レベッカは、セシルが自分の秘密を知っているらしいことに気づいて、絶望した。 「許してください! どうかこのことは誰にも言わないでください!」 黙っていてほしいのは、『悪魔の花嫁』であることか、それとも我が子を殺そうとしたことか―― 「僕があなたの秘密を知っているのは、僕の優秀すぎる影が調べ上げたからです。 安心してください。知っているのは僕だけです。影は僕に忠誠を誓っているので、秘密を漏らすことは絶対にありません。
それは日付が変わり、獣人王シドの処刑が予定されている日の夜の出来事――「こんばんは、レベッカ・ライト侯爵夫人。月が綺麗ですね」 聞いただけで心が洗われるような美しい少年の声がその場に響き渡るが、後ろめたいことがあったレベッカは、かなり驚いてしまって、ビクリと大きく体を震わせた。「セ、セシル様……」 振り返り、そこにいた人物の名を呼ぶ。少年――セシルはにっこりと、完璧な微笑みをレベッカに向けた。 レベッカは次期宗主配セシルと顔見知りではあるものの、そこまで親しくはない。彼女にとっては、少年であっても美しすぎる男は苦手だったから―― セシルとはたまに会う社交場での表面的な付







